内視鏡外科部長の竹村と申します。
最近増加している病気のひとつとして逆流性食道炎があります。逆流性食道炎の症状は胸焼けやのどの不快感、呑酸、食後の嘔吐など様々で、さらに喘息や慢性の咳、齲歯や中耳炎などにも関係しているとされています。時に狭心症を疑うような非心臓性胸痛と呼ばれる突発的な胸の痛みを生じ、救急搬送される方もあります。このように逆流性食道炎には多彩な症状を呈する疾患として知られていますが、その治療法は 1.生活習慣の改善、2.薬物による治療、3.外科的治療 の三種類があります。今回はこれらの治療法について解説します。
逆流性食道炎の治療法 1.生活習慣の改善 2.薬物による治療 3.外科的治療 |
まず、1.生活習慣の改善についてです。暴飲暴食、早食い、食後すぐに横になることは、逆流性食道炎の症状を悪化させます。暴飲暴食により胃からの排泄障害が起こり、胃内から食道への逆流が生じ易くなります。また、脂肪分の多い食物、チョコレートなどの甘いもの、コーヒー・紅茶、アルコール、タバコなどは胃酸を過剰に分泌させ、逆流性食道炎の症状を起こしやすくします。さらに、食後すぐに横になると胃内の食物が食道内に逆流しやすくなるので、寝る前には食事をひかえ、夕食をひかえめにすることが大切です。また、腹圧上昇も症状増悪の原因となるため、肥満を解消し、腹圧を上げないようにすることも大切です。
次に、2.薬物による治療についてです。逆流性食道炎に対する薬物による治療の目的は、胃酸の刺激性を減らし(胃酸分泌抑制剤)、胃からの排出を向上させる(消化管運動機能改善剤)ことにありますが、薬では逆流そのものを抑えることは困難です。胃酸分泌抑制剤には、プロトンポンプ阻害剤(PPI)、H2ブロッカーなどがあります。プロトンポンプ(PPI)は、非常に強力な胃酸分泌抑制剤で、その効果の高さから最近ではH2ブロッカーよりよく用いられています。しかし、逆流性食道炎に対するPPIは中止すると、症状が増悪することが多く長期投与になりがちであり、最近ではこの長期投与による問題点も多々指摘されるようになっています。薬剤アレルギーはもちろんですが、特徴的なものに慢性の下痢を呈する膠原線維性大腸炎があります。その他、胃酸を長期にわたって抑制することで、胃酸による殺菌作用が低下し、様々な感染症を引き起こす可能性や、骨粗しょう症・認知症などとの関連が疑われています。このため、最近では胃酸を強力に長期にわたって抑制するのではなく、最短の期間で最小量の投薬で胃酸を抑制することの重要性が指摘されています。
これら生活習慣の改善と薬物による治療で効果が見られない場合は外科的治療が適応になります。逆流性食道炎に対する外科手術では、胃から食道内への逆流を防止する機能の修復(裂孔修復術)を行います。この手術は以前は開腹下に行われていましたが、最近では傷の小さい腹腔鏡下手術で行われることが多くなっています。
日本内視鏡外科学会の集計でも本手術の件数は年々増加しており、現在では年間約300件が行われるようになっています。当院でも2017年1月から本手術を導入し、薬ではコントロールできなかった逆流性食道炎の症状が、少量もしくは薬を服用しなくても症状をコントロールできるようになっています。
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